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生体分子の細胞内存在状態

 

 

 生物の基本単位である細胞の内部には,遺伝情報である核酸の指令により作られたタンパク質などの生体分子が存在します。生物の重要な機能の一つである代謝は,外部から取り込んだ物質を自らの酵素(タンパク質)により化学的に変換する多段階反応で,その各段階には異なる酵素が関わります。単離した各酵素を混合して水溶液中で連続反応を行わせるためには,酵素や基質を細胞内の存在量に比べて過剰に加える必要があります。ではなぜ生物は,薄い濃度条件でも連続する化学反応を効率よく行えるのでしょうか。

その仕掛けとして細胞内の区画化があります。ミトコンドリアや葉緑体などの細胞小器官は脂質膜に取り囲まれた構造で,一連の反応に関わる酵素群を内部に濃縮することで,代謝を効率化しています。加えて最近,境界に脂質膜を持たない機能的構造体が細胞内に存在することがわかってきました。この構造は,サラダドレッシングの中で油が分離するのに似た「液-液相分離」という物理化学的現象により,タンパク質や核酸が集まることで形成されます。液-液相分離による構造形成は可逆的であることが特徴で,生物はその仕組みを反応の効率化だけでなく,外界の変化に応じた遺伝子発現や情報伝達経路の切り替え,タンパク質の一時的保存など,様々な場面で利用しているようです。

(理学部ニュース51号 2020年6月 掲載予定)