テロメア恒常性の維持と異常応答:その分子機構と進化

(1) テロメア恒常性維持機構の多様性

ほとんどの真核生物種では、染色体末端はテロメア-テロメラーゼシステムにより維持されている。一方で、哺乳類細胞の発生のごく初期や、ある種のがん細胞では、テロメア末端を相同組換え機構により維持している。なぜ生物はそれぞれの機構を使い分けているのだろうか?その機構はどのようなものだろうか?テロメア結合タンパク質の活性調節機構に注目することで、テロメア維持に関わる異なるしくみを切り替える過程を明らかにしていきたいと考えている。

(2) テロメア異常に対する細胞応答機構

テロメラーゼの活性低下は、末端複製問題を介したテロメアDNAの短縮をもたらす。このテロメア短縮は、細胞の分裂老化の原因となる。テロメア異常がどのようなしくみにより感知されているか(Matsui and Matsuura, 2010)、テロメア短縮による細胞周期異常はどのように生じているか(Miura et al., 2019; Miura and Matsuura, 2019)、に関して、遺伝学と一細胞レベルのタイムラプス観察を組み合わせてアプローチしている。最新研究紹介(生物学科HP)

(3) 特殊なテロメア維持システムをもつ病原性真菌

Cryptococcusは日和見感染を引き起こす病原性真菌であり、この生物種ではDNA末端へのテロメア付加効率が他の生物に比べて高いことが示唆されている。この生物種のユニークなテロメア維持の要因を明らかにすることで(Kubota et al., in preparation)、テロメア維持システムの進化に迫りたいと考えている。