細胞の分裂と成長の共役を司るシグナルの制御機構

(1) 栄養欠乏状態下での細胞周期回転に必要なオートファジー

分裂中の細胞が窒素源欠乏状態に曝されると、細胞はG1期で停止し、栄養条件が回復するまでその状態に止まることが知られている。我々は、窒素源非存在状態で細胞周期を次のG1期まで復帰させるためにオートファジーの機能が必要であることを見出した (Matsui et al., 2013)。オートファジー欠損によりG1期への復帰ができなかった細胞では、栄養再添加後の核型に異常が生じることから、オートファジーによるゲノム安定性維持機構の一端が明らかになった。プレスリリース

(2) TORC1経路の分岐した下流経路を外界の条件に応じて調節するしくみ

TORC1は栄養シグナルにより活性化され、タンパク質合成活性の調節により細胞成長を司る。また、TORC1はオートファジー、栄養の取り込みなど、細胞の同化・異化バランスに関わるさまざまな経路を制御している。栄養欠乏以外のストレスにより TORC1経路の活性が低下することが知られているが、TORC1の直接基質の細胞内局在性を制御することにより、TORC1の下流が経路ごとに異なる調節を受け得ることを示した (Takada et al., 2018)。この結果を踏まえ、TORC1下流の「基質局在性による制御モデル」を提唱した (Takeda and Matsuura, 2018)。最新研究紹介(生物学科HP)

(3) 酵母にとって実験室で生育している環境とは?

酵母を合成培地で生育させると、培地が急速に酸性化することが知られている。定常期以降の細胞の生存は、培地のpH低下により大きく影響を受けること、培地pH低下の主要な原因は窒素源としてのアンモニウムイオンの利用であることを明らかにした (Maruyama et al., 2016)。酵母が生育する培地を再検討することで、酵母と細胞との間で、増殖相に依存した窒素源のやりとりがおきていることが明らかになりつつある。

(4) 酵母を用いた一細胞生物学により、集団中の細胞の個性に迫る

同一の遺伝的背景を持つ細胞集団であっても、個々の細胞の状態が微妙に違うことが明らかになりつつある。性決定に関わる遺伝子や環境変化に応答する遺伝子の発現に注目し、集団中の細胞の個性の発現機構とその適応的意義の解明に取り組んでいる。

オートファジーがゲノムを安定化させるしくみ

TORC1と基質の間の物理的距離の調節

より、情報伝達様式を変化させる