教育 · 07日 3月 2019
大学院の入学以来、単細胞の微生物で細胞増殖、特に細胞の分裂周期の制御に関する研究を続けている。具体的なテーマは時期や勤務地とともに変化しており、現在の研究対象は細胞老化(分裂を繰り返すことにより機能が低下し、やがて分裂不能な状態へと至る不可逆的な変化)の過程である。学生に細胞分裂のしくみを講義する際に強調するのは、遺伝情報を正確に二つの娘細胞に分配する前に、細胞が何段階にも亘る確認作業を行っていることである。遺伝情報を正確に分配するための、この複雑かつ精巧なしくみが破綻すると、ガンや老化が引き起こされる。私たちが今この世で生きているのは、このような正確さを保証するシステムのおかげで遺伝情報を過去から綿々と繋いでくることができたからである。 最近、日本の大学を巡るニュースの中で気になっているのは、文系や基礎科学に関わる学部への風当たりの強さである。理学部は社会の役に立たない研究ばかりをしていると言われ続けているが、理学部の果たすべき最大の役割は人材育成にあると思う。アカデミアの研究者として研究に従事する人材はもちろん、本人は直接研究をしなくても、基礎研究を理解しその意義を周りに広めてくれる応援団としての人材。我々が先人から受け継いで来た叡智を後世に繋いでくれる人材を一人でも多く輩出すべく、これからも努力したいと考えている。 [公益財団法人内藤記念科学振興財団「内藤財団時報」第97号(2016年3月16日発行)掲載]